About

2015年9月8日火曜日

Care Under Fire とは?

今度の法案では、海外派兵される自衛隊員の安全は確保されているというのが政府の言い分のようだ。「隊員の安全確保」は、公明党の北側3原則の一つでもある。
いわゆる派兵恒久法である国際平和共同事態対処法案にいわく、「防衛大臣は、対応措置の実施に当たっては、その円滑かつ効果的な推進に努めるとともに、自衛隊の部隊等の安全の確保に配慮しなければならない」(9条)。また、「実施される(中略)役務の提供の具体的内容を考慮し(中略)自衛隊の部隊等がこれを円滑かつ効果的に実施することができるよう(中略)実施区域を指定する」(同7条2項)、「協力支援活動を実施している場所若しくはその近傍において戦闘行為が行なわれるに至った場合若しくは(中略)予想される場合又は当該部隊等の安全を確保するため必要と認める場合には、(中略)活動の実施を一時休止し又は避難するなどして危険を回避」(同5項)といった案配である。
ところが、当事者である防衛省・自衛隊の側では、「第一線救護における適確な救命に関する検討会」なるものが新たに設けられ、ここで4月以来会議が重ねられている。その会議で検討されている中味は、公表されているものを見るだけでもいささか衝撃的だ。
4月22日の配布資料「自衛隊の第一線救護における 適確な救命について」や、 座長配布資料「Role の役割と特徴」には、「戦闘地域」、「後送体制」といった言葉が当然のように使われている。
4月22日の会議録には、次の発言が記されている:
・ 第一線救護について、本邦における臨床的な蓄積はないので、文献的な考察になるものと考えるが、戦闘形態の変化に伴い、戦傷、治療の形態も変化しており、特に病院搬送前後の治療は格段に変化している。
・ 危険な状況において最初にやるべきことは、全員を安全な場所まで移動させることである。弾が飛び交っているような危険な現場に我々民間人が行って医療を提供することはできないので、まず移動中に自衛隊が可能な応急処置をし、安全な場所では一般の医療ルールの中で処置をするという議論ではないか。
・ 弾が飛び交う中での処置は困難で、すべての患者に外科的処置をするという議論ではない。裂傷が激しい場合など、セーフティネットも含めてどこまで許容するかという議論ではないか。
・  医療が優先する場合と戦闘が優先する場合があると理解している。そういう状況下では、一般のMC(メディカルコントロール)の概念はなじまない
また、6月17日の検討会で配布された資料は、「敵との交戦下において実施する救護の状況」を示す写真(イラク戦争におけるファルージャの戦闘!)や戦闘を書き込んだイラストが生々しい。そこでは、「第一線(Care Under Fire)においては、多くの場合一般隊員しか存在せず、止血のみと処置は限定される。敵の有効な火力下での救護であり、処置は相当困難な 状況下で実施せざるを得ない状況」と率直に記されている。なお、Care Under Fire は「敵の有効な火力下の救護」と訳され、Tactical Field Care は「敵の直接の砲火は脱したものの依然敵の脅威下での、衛生科隊員による処置」とある。

7月23日の議事録には、次の発言がある:
・ 戦闘地域の中では、第一線救護は医療が主体となる場面ではなく作戦が主体となり、通常の医療の考え方と異なる。戦闘地域の中でどれだけの救護処置が出来るかという事を議論する必要がある。
・ 第一線においては、医療が優先する場合と戦闘が優先する場合があると理解している。そういう状況下では、一般のMCの概念はなじまない。
・ 第一線というのは必ずしも医学的に正しい事が出来るという状況ではないので、それが本当に適切であったかというところを戦術上から見ていかなければならない。医学的視点からの検証だけではないというのが普通のMCとは違う部分。大きな骨格としては医学だけでなく戦術も含めた形のコントロール体制を検討すべき。戦術の面と医学の面の双方から見て適切であったかについて事後検証できる体制とする必要がある。

この日に配布された資料「有事緊急救命処置(仮称)のプロトコール(案)」では、Care Under Fire と Tactical Field Care におけるトリアージ・アルゴリズムが示されており、戦傷者対応アルゴリズムでは、「戦傷者が発生したならば、 まず、現状の把握を最優先する。 (戦傷者の数、敵の脅威、その他の危険等) ・動けるか? ・自分で処置できるか? ・交戦可能か? を確認する」とある。

要するに戦場、戦闘現場での対応によって、いかに死者を減らすかが減らすかが検討されているのだ(*)。法案に、隊員の安全配慮、活動実施区域の限定、一時休止・撤退が規定されようと、そんなもので実際の活動現場が安全になるなどと防衛省も自衛隊も考えていないのである。

* イラク・アフガン戦争における「有事緊急救命処置」の有効性について、TCCCガイドラインを導入した第 75 レンジャー連隊では「施設搬送前の死亡者率」は10%台と、全部隊の平均16%台より低い。「今回自衛隊が想定する戦傷の種類はこれらに近似しているという想定」

少なくとも次の2点が確認できる。
第1に、「第一線」とは「弾が飛び交っているような危険な現場」「敵との交戦下」、「敵の有効な火力下」、つまり戦闘現場のことであり、ここに自衛隊員が赴くことが予定されていること。
第2に、この第一線での医療処置では、「安全な場所」で通用するような一般の医療ルールは通用せず、戦闘を優先する場合があり、医療が主体となる場面ではなく作戦が主体となり、その適切性は、戦術面から評価されること。

わが安倍首相は、武力行使を火事になぞらえた。Care Under Fire をどう訳すかと問われたら、アメリカに留学し、アメリカ議会「演説」もした彼はどう訳してくれるだろうか。

念のため Google で、Care Under Fireを検索すると、戦闘現場での救護活動の画像ばかりが出てくる。火事場の写真は出てこない。安倍首相は分かっているだろうか?
また150617第一線救護、YouTube にも TCCC(T3C)のビデオがいくつか出ている。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「防衛省コンバット・メディカルコントロール CMC (仮称)体制(案)」
http://www.mod.go.jp/j/approach/agenda/meeting/kyumei/sonota/pdf/03/002.pdf
 (by 三輪隆)