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2019年3月31日日曜日

元号は使わない

この国は同調圧力、右へ倣えの力が強い。「ここではこうなっています」「これが決まりです」という言い方がされ、「迷惑をかけた」が謝る際の定型表現であったりする。なぜ「こうなっている」のか、それは誰が決めたもののかは問われず、あたかも人為の及びえない自然現象であるかのように「こうなっている」「決まり」と言われる。姿形も見えない誰か得体のしれないものに対して「迷惑をかけた」と言われる、あるいは言わされる。

こうした訳のわからないものにむやみに従いたくはない。大勢の人はこのような社会的な力に“適当”に応じているのかもしれない。しかし、大勢の人も「皆んな」も間違えることがある。そして「皆んながそうしていたから」は言い訳にはならない。

アホな言い訳をする羽目に陥らないためには、大勢の人や「皆んな」がやることから外れることができる途をあらかじめ確保しておいた方がよい。

しかし僕はいたって気が弱い者なので、大勢の人や「皆んな」がやることに押し流される傾向がある。そこで大勢の人や「皆んな」から外れる“練習を日頃から続けることにしている。つまり大勢がやっていても僕にはおかしいと思われることで、僕自身の力でやれる大勢からは外れるだろうことをやり続けることだ。それを続けていれば、いざという時になっても大勢から外れる勇気を保つことができるのではないか。

ところが世の中おかしいと思われることはたくさんある。その総てについて大勢から外れていては疲れてしまう。癪に障る順からいくつか選んでというのも大変だ。忘れずに続けるには一つがよい。こう考え、大勢から外れることをやる人の多い少ないの程度*1と、大勢から外れる距離の程度*2の二つの尺度から、僕なりに細々とであれ続けられそうなことを選んでみた。


元号は使わない。これが僕が選んだことだ。およそ物事の尺度は通用力のあるものの方が優れている。元号は日本国内でしか通用しない。一国でしか使えない記年の仕方で人々を縛ることは、時間感覚を一国に縛りつけることに他ならない。

また、国内で通用するといっても複数の元号にまたがって数えるときには面倒だ。毎年の手帳には年齢早見表にはついている。役所や銀行の窓口では、西暦・和暦対照表が備えられていたりする*3

元号を変え決める基準もおかしい。元号は“時代”によって変えるというのなら、たとえばヒロシマ・ナガサキの年や、サンフランシスコ講和・日米安保の年、東日本大震災・フクシマの年に変えるの至当ではないか。それを天皇という飛びぬけて特権的な地位にいる者の都合変えるのであるから不愉快極まりない。これは天皇に政治の支配権力や正統性があった時代のなごりではないか。

裕仁天皇が死んで新しい元号が作られたとき新天皇は56歳だったので、僕は新元号はろくに使われなくなると思った。89年当時にもこの国の高齢化傾向はすでに明らかであったが、しかし人口の大半は新天皇より若かったので、元号を使い続ければその人たちは生涯のうちに3つの元号を使うはめになる、誰がそんな面倒なことをするものかと予想したからだ。

元号を使う人が少数派になったら次は何をしようか。僕は心配しはじめていた。役所などでもむやみに求められる捺印を拒んで署名で済ませる*4ことを始めようか、、、。ところがこんな心配をする必要はなかった。圧倒的に多くの人々はヘイセイに元号を使い続け、前の元号からの換算も平静に行っていた。

今度はどうなるか。何よりもグローバル化の度合いは89年の比ではない。モノの流通だけでなく、情報、そしてヒトのいききは指数関数的に増大し、かつまた加速している。いくら「日本はすごい」と勝手に盛り上がったり、COOL JAPAN などと宣伝しても、時間感覚を国境の中に縛りつけておくことは難しくなるばかりだろう。

国内では人口高齢化の程度は89年より進んでいるとはいっても、現在59歳の次の天皇よりも若い人の方が人口構成では多い。今度の退位のように85歳定年が繰り返されるとしたら(そう思っている人は少なくない)、あと25年後にはまたまた元号が変わる。次の天皇より年長のアラセブンの我々の世代の者でも、元号にはバカらしくて付き合っていけないと思うのではないか*5。つまり、元号を使い続ける社会環境は厳しくなっている。これは元号大好き派にとっては危機だ。

安倍政権は新天皇即位の1ヶ月前の明日に新元号を発表する。これは、新元号制定に伴う「行政システムの改修期間を一定確保し、国民生活の混乱を避ける」ためとか言われる。しかしこの一ヶ月の期間が設けられたのは、元号を使う上での支障を和らげるためというよりも、めっきり悪くなっている外部環境に抗して元号を宣伝、普及する狙いからだろう

天皇の代替わり・即位の前に、時間感覚を「素晴らしい日本」に縛りつけるうるさい一ヶ月が始まる。