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2014年8月19日火曜日

読書記録 14年春

しばらくブログから離れていた間に読んで面白かった本を、忘れないうちに記しておく。

マイケル・ドブズ(訳・三浦元博)『ヤルタからヒロシマへ 終戦と冷戦の覇権争い』2013年、白水社

原題は、Six Months in 1945,  FDR, STALIN, CHURCHILL, and TRUMAN - From World War to Cold War,(Alfred A. Knopf, 2012)45年2月のヤルタ会談からソ連の対日参戦までの米英ソ3国首脳の駆け引き、そしてヨーロッパ戦線の様子を描いたノンフィクションだ。

ヤルタでの豪勢な夕食の様子、3年以上休みなしに戦ってドイツに入ってきたソ連軍兵士たちの粗末な衣服と悪臭、棚ぼた大統領トルーマンのいじましい頑張りぶり、等々。ほとんどが史料的裏付けをもって描かれているだけに、戦争に関わるノンフィクションでありながら並の歴史小説の類いより生き生きとしていて実に面白い。

僕は、気にかかることに出会う度にサイトを検索したり、またYouTubeで当時のニュース映画などを見て国務長官バーンズがトルーマンよりもでかい面をしようとしている様子やら、モスクワの戦勝軍事パレードがその後の「伝統」となる大イベントであった様子を確かめて愉しんだ。


第2次大戦関係の気晴らしで読んだ本。『ナチを欺いた死体』は、米英軍のシチリア上陸作戦(43年7月)の欺瞞作戦であるミンスミート作戦についての、『英国二重スパイ・システム』は、ノルマンディー上陸作戦(44年6月)の欺瞞作戦で英国の二重スパイ(ダブルクロス)の一癖も二癖もあるメンバーが果たした役割についてのノンフィクション。

これまた裏付けがしっかりしていて面白い。特に前者は死体に偽情報をもたせこれを掴ませる作戦だけの裏話なので、まとまりも良く、ユーモラスな筆致に「優雅な40年代の英国」が愉しめる。

後者は登場する二重スパイの一人一人がその英独双方の担当者の思惑にとらわれずぶっ飛んで「勝手」に動くさまが何とも面白い。言いなりに動いていたら命が危なくなりかねないのだから当然か。こうした個々のスパイの活躍は面白いが、しかし作戦全体との関連にまとまりがなく、気晴らし本としては前著に劣る。


ワシーリー・グロスマン(齋藤紘一訳)『万物は流転する』2013年、みすず書房

集団化による30年代のウクライナの大飢餓、37年に頂点を迎える粛清の断面を鮮やかに描いた上で、これをもたらしたソビエト体制の起源をスターリンだけでなく十月革命(クーデタというべきか)をも遡って探っていく。小説の形をとってはいるが、あの『人生と運命』の理論編というべき作品

チェルヌイシェフスキーのあの『何をなすべきか』が好きだったというレーニンのリゴリズム、論争といっても相手との応答によってではなく、論敵を人びとの前で馬鹿にし罵倒することによって「論破」する手法、そして寛容のなさ! 若い頃レーニンを読んでいて僕が何とも嫌だった点が静かに指摘されている。50年代のソ連でここまで言ってしまうことは殆ど死を意味しただろう。しかし、あの国にはそれだけの勇気をもった知性があったわけだ。

日本では72年に現代ロシヤ抵抗文集(勁草書房)の1冊として訳されていたという。知らなかった。現存した社会主義がもっていた問題については、左翼の間でさまざまな反省や総括がなされているようだ。だが残念ながら、日本語で書かれたもので、生身の庶民の自由と尊厳を正面に据えて検証し考察したものを僕はまだ知らない。