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2009年12月20日日曜日

弁護士報酬の怪



3年にわたって遺産分割をめぐる調停に付合わされた。この自分で自分の利益を守ろうとしないわが母親殿のために弁護士を代理人に依頼した。放っておくと話合いもせずに調停を申立てた親愛なる弟殿や妹殿の言いなりになりかねないからのことだった。

6月末に事実上の決着がついていたのが、相手側による事後処理の遅れのために、ようやくこの時期になって報酬金の連絡があった。

「母が遺産の約半分取ることになったので」と、おや!?と思う額が示された。
最初の代理人契約のときに、基本は数年前まであった弁護士報酬規定に基づいてとのことであったから、得た「経済的利益」が3千万を越えた7500万円余になった母については6%で、旧報酬規定だと調停・審判の場合はその2/3だから、300万円と少々。これに契約にある所定の138万円を加えてたうえで、(まけて?)432万円だという。

分からないことの一つは、旧規定第15条では、「前条で算定された経済的利益の額が、紛争の実態に比して明らかに大きいときは、弁護士は、経済的利益の額を、紛争の実態に相応するまで、減額しなければならない」と、減額努力の義務規定があることに関わる。今回の調停・審判は3年に及んだが、しかし、ここまで時間がかかった原因の半分くらいは当事者の時間の都合が合わなかったことであり、母の今後の生活の安定を優先的に配慮する点では当事者は一致していたし、争いの実態は左程に「重大若しくは複雑な」ものだったとは思われない。数年前、僕が労組委員長だったときに36協定を止めたとき交渉の方が余程に困難だった。確かに何をもって「紛争の実態に相応する」とするかを決めるのは難しいところだろう。しかし、月割りすると月10万円以上になる額というのは、「紛争の実態に比して明らかに大きい」と思われてならない。プロならば自分でやっても1時間もかからずに書ける書類、その他相手方との連絡、依頼人本人との連絡など。どう考えても平均して月5時間もあれば悠々と片付く仕事だ。

大体、旧規定でも日弁連の新しい報酬規程でも、「経済的利益、事案の難易、時間及び労力その他の事情に照らして適正かつ妥当なもの」でなくてはならないとあって、基準が曖昧であることだ。5年前の旧規定廃止後も多くの弁護士事務所では旧規定を使っている。その報酬算定基準は、主として「経済的利益」である。まずはここで報酬額の基本が決まり、次に「紛争の実態に比して明らかに大きい」かどうかが問題になるに過ぎない。新規程でも「事案の難易、時間及び労力その他の事情」を決める主体は、当の弁護士であって、第三者がある客観的尺度でその計算の適正性や妥当性をチェックするわけではない。素人である依頼人の側は、「ああ、実に難しい事件でした。ご満足がいかない点もあったかもしれません。しかし、これほどやっかいだとは思いませんでした」等と、弁護士センセイから言われると、何も反論できないだろう。

次に分からないのは、旧規定第14条13号では「分割の対象となる財産の範囲及び相続分についての争いのない部分については、その相続分の時価相当額の3分の1の額」とあることにかかわる。母の代理人を引き受けて下さった弁護士さんは、あっさりと「鑑定が入ったから」と言う。母を除く当事者間で遺産である不動産の価額をめぐって時価か路線価か課税評価額かなどの争いがあった。そこであっさりと担当の調停官(裁判官がやっている)は、「じゃあ鑑定にしてもらいましょうか」と言った。しかし、この前提にあった不動産価額をめぐる「争い」は、極めて単純なものだった。

もし、<分割対象の価格を争えば弁護士報酬が3倍になってしまう>ことを知っていれば、当然に依頼者側では、それが問題になった時点で「争うか否か」を必ず考慮する。すべての依頼者が旧規定を注意深く読んでいたり、理解しているわけではない。僕も見落としていた。気がついていれば僕は争わなかった。

そうした時点にさしかかった際に、普通だったら専門家である弁護士は、「意見の違いは実質的に大きなものではありません。ここで争えば最後に私がいただく報酬金は3倍になり私は得をしますが、それでもよろしいのですか」くらいの注意を依頼者に促さないのはおかしいのではないかということである。今日の消費者法では、ことある度に事業者は消費者に対して商品の説明をすることた求められており、これを怠ると事業者の責任が問われたり、消費者に不利な結果と招いた場合は契約のはじめに遡って取り消されることが少なくない。このありようと比べると、鑑定を入れるかどうかが問題になった時点で、母に説明がなかったことは随分におかしい。

第三に分からないのは、日弁連のウェブ・サイトに載っている2008年度アンケート結果にもとづく「市民のための弁護士報酬の目安」との開きが余りに大きいことだ。その23頁(遺産分割調停)には、「5千万円相当の遺産を取得し、納得する分割となった」場合について、報酬金は、100万円前後の30.7%をピークに、全体の80%が220万円前後までに留まっている。この1.5倍だとしても300万円代にしかならない。

http://www.nichibenren.or.jp/ja/attorneys_fee/data/meyasu.pdf

そう言えば以前に、儲けにもならない公害訴訟や9条裁判に係わってる弁護士さんに、「よく手弁当でやっていけますね」と水をむけたところ、「いや、相続や離婚でたっぷりもうけさせてもらっていますから」との返事があり、きょとんとしたことがあった。相続や離婚を楮鄭や裁判で争うような人は、まずはお金持ちだから、そこからしっかり報酬金をもらえば良いとでもいうのだろうか。納得できない。