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2008年6月3日火曜日

ヘアー・スタイルの自由



今日は、教育実習の準備にかかわる2コマ特別授業をした。

「社会科は必要なのか?」、「社会科の授業で何が大切なのか」といった問題について、グループ討論を入れながら考えた。振り返ってみると予定した課題が2コマに納めるには多すぎた。しかし、学生諸君は実に真摯にぼくの問題提起を受け止めてくれ嬉しかった。時間枠の見当を間違えたのは失敗だったが、大多数に問題を受け止めてもらえただけでも全体として成功だったと思う。

ところが驚くことは授業の後にあった。男子学生がよって来て「ピンクのネクタイで教育実習の参観に行っていいですか」と尋ねてくる。へぇ! さずが若者!、しかし君にピンクのネクタイが似合うのかなあと内心思いつつ、「ネクタイして行かなくてはならないの」と聞くと、「そうしなくちゃならないらしいんです」と言う。「どうして?」と聞くと、「ちゃんとした格好で来いっていうことです」。6月の当地でネクタイでもあるまいと、つい「ネクタイの本家の欧米では、改まったときには蝶ネクタイらしいぜ」と言ってしまう。「それはないっすよ」と言うから、「つまり、何とかの一つ覚え。ネクタイでも何でもいい、”疑問を持たずに右へ倣え”、これが要求でしょう? そんなことで(子とも達の)自ら考える力を培って行くことなんかできますかという問題。悩んで下さい」と突き放した。

ところが、続いて女子学生がやってきて、「このアタマで行って良いですか」と尋ねる。僕はきょとん。「えっ! なぜ?」と聞き返すと、「染めていて、、、」と口ごもる。そう言われて見れば確かに少しこげ茶色がかった部分がある。「それは君の好みだろう、、、それに**学校の教師だって白髪を染めている人はいるんじゃないの?」と応えると、「黒い髪で来いって言われるらしいんです」とのこと。横で聞いていた男子学生が、「で、俺はこんななんで丸刈りにするしかないかなと思っているんですけど、どうも丸刈りもやばいらしいんです」と言う。見ると、これは明らかに「そんなに染めてご苦労さん」といった文字通りの茶髪。「すると、僕みたいな坊主頭だとまずいのか。少なくなったし、今更みっともないからバリカンで丸刈り、床屋代もうかせて一石二鳥だぜ」と僕。「いや、先生みたいのは一寸キモイとか、、、」と言う。

そこで、僕の答えはおよそ次のとおり:
「僕は”研究授業”でもこのアタマで行く。アデランスにもアートネーチャーにも世話にはならない。大学の教師の特権があるとしたら、敢えてそれを意識的に使う。それは特権がある者のいわば義務だと思うから。でも、君たちは弱い立場にいる。しかし、だからといってこんなことで画一化を迫って、黒髪を強要するのはおかしいことであること、それは忘れないで欲しい。今はそれしか言えない」。

実習生の服装や髪型でびくびくする学校現場には、今更ながらに暗然とする。学生の悩みに正面から応えられないことが疎ましい。

そんなやり取りの後、夕食が終わってTVニュースを見ているとローマで開かれたFAOの食料サミットの様子が映っている。見ると、あのベルルスコーニの頭が何と黒くなっているではないか。あの歳で、いつ生えたのだ! いつ生やしたのだ? 今夜は黒髪にうなされそうだ。