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2010年10月18日月曜日

「第3の人生」のための闘いと法

日本では、退職後の「第三の人生」として人々が希望する期間は平均すると約15年位であるのに対して、フランスでの平均は約25年だという調査を見たことがある。30年以上は退職後を楽しみたい僕には、我が祖国の人々の「勤勉さ」には鳥肌がたつ思いがしていた。人間らしい人生にとって、退職後の「第三の人生」は、この世に生まれ、そして死んで行く人間にとって必要不可欠のものではないか! そんな僕であるから、今度のフランスでの年金改革反対運動は大変に気がかりで注目していた。

9月末くらいから、かの国での年初め以来の年金制度改革反対の運動は、第3の山場を迎えたようだ。年金開始年齢を60歳から62歳へ、全額支給年齢を65歳から67歳へと変える法案は、2度にわたる反対派の全国ストにも拘わらず、既に上院を通過している。しかし、この春の地方選挙では与党は惨敗しているし、サルコジ大統領にたいする支持は30%を切ろうとしているという。

興味深いのは、議会で法案が通っても、否むしろ通った後にも反対運動が盛り上がり、法案反対の全国ストには世論の70%の支持が集まっていることだ。トラック運転手達もノロノロ運転をし、南西部などいくつかの地方では、ガソリンスタンドの蓄えがなくなっているという。首相は、「人々の燃料にアクセスする権利を脅かす権利はない」と反対運動を非難しているそうだが、しかし労働組合のストライキや団体行動は、憲法上でも保障された権利である筈だ。

つまり、法は立法を通して人々を拘束する仕組みとともに、その法を覆す方途も定め、両者の緊張関係の上に動いていることになる。日本の法もそういう構造にはなっている。しかし、後者を実際に使い動かす力は、1970年代あたりで殆ど見当たらなくなった。しかし、そうした力がフランスでは健在であるという事実。これは何とも考えさせられることだ。

改めて感動的なのは、高校生を含む学生たちもが年金問題という、自分たち自身にとっては未だ先の問題に取り組んでいることだ。これは単に教育費削減に対する年中行事化したデモや学校占拠とは違う。この国の若者たちも、凄まじい教育費削減や雇用状況の悪化の中で、現在の政治に対する憤りを高めていると思う。しかし、その憤りがこうした人々に呼びかけ、仲間達で力を合わせての運動にすることが極端に難しくなっているのは、何とも痛ましい。