About

2012年1月5日木曜日

二つの中間報告はワンセット?

いただいた年賀状の多くには「明けましておめでとうございます」とある。しかし、2万人もの方が亡くなり、広範な地域の生活が破壊され、今でも30数万人の方が避難生活を余儀なくされている。そして原発事故は新たな放射線汚染時代を開いた。素直に新年を祝う気にはなかなかなれない。

この国のマスコミは、暮れから正月にかけては「めでたい明るい話題」で覆われる。それを狙ってか原発の今後にかかわる二つの大事な中間報告が暮れに出された。12月26日に出された政府の「東電福島原発事故調査・検証委員会 」(委員長・畑村洋太郎東京大学名誉教授)の「中間報告」と、翌27日の内閣府「南海トラフの巨大地震モデル検討会」による「中間とりまとめ報告」だ。

前者は、「事故の原因及び事故による被害の原因を究明するための 調査・検証を、国民の目線に立って開かれた中立的な立場から多角的に行い、被害の拡大防止及び同種事故の再発防止等に関する政策提言を行うことを目的として」設けられた委員会によるもの 。シビアアクシデントへの東電の対応や政府の情報連絡・対応の問題などを指摘していることからだろうか、各紙は概して好意的だ**

* 本文
**「毎日新聞」社説
http://blog.livedoor.jp/ryoma307/archives/5610182.html
しかし、多角的な調査・検証を標榜しながら、各方面から指摘されている地震による配管破断については判断を見送っている。
原発設計技師であった田中三彦さんは、水位と圧力の生データでシミュレートされる冷却水喪失スピードから地震による配管破断・冷却水喪失を推定しており、かの保安院も「配管の損傷の可能性」を認めていた**。津波による全電源喪失の前に既に原発は損傷していたとなれば、「津波対策をすれば大丈夫」キャンペーンはすっ飛び、定期検査後の運転再開の可能性は著しく少なくなる。
* 田中三彦「原発で何が起きたのか」(石橋克彦編『原発を終わらせる』岩波新書1315, 2011年 所収)、同「福島第一原発1号機事故・東電シミュレーション解析批判と、地震動による冷却材喪失事故の可能性の検討」『科学』2011年9月号所収。
** 東京新聞12月15日「福島1号機配管 地震で亀裂の可能性」
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2011121502000029.html

なぜ中間報告から地震による配管損傷の検討は省かれたのか。既に中間報告の1週間前、「共同」配信で「中間報告では地震の影響について踏み込んだ判断を見送ることが19日分かった」との報道があった。中間報告は、圧力容器と格納容器についていずれも「損傷を窺わせるような形跡は把握されていない」としている。
* http://www.47news.jp/CN/201112/CN2011121901001241.html

善意に解すれば、損傷を確かめられるデータ不足のため判断を先送りしたと取れないでもない。しかし、一方で水位と圧力の変化の事実から破断を予測する見解があるのだ。「国民の目線に立って開かれた中立的な立場から多角的に行」うというのであれば、この見解に真正面から答えなくてはなるまい。大地震はこの夏に予定されている最終報告の前に起こるかもしれない。「同種事故の再発防止等に関する政策提言を行う」ことが、次の大地震による原発損傷事故の後になることは許されない筈だ。

どうやらこの「事故調査・検証委員会」は、同じ時期に予定されていた「南海トラフの巨大地震モデル検討会」の中間とりまとめ報告との関係を予め考慮していたのではないかと思われる。後者の報告は、東海・東南海・南海で予想される巨大地震の想定について、従来の想定の震源域を何と2倍程度に広げているのだ。原発続行・推進派としては、こんな報告が出るタイミングで地震による配管損傷の可能性に触れてほしくはない。「事故調査・検証委員会」中間報告からの地震による配管損傷の検討先送りは、データ不足によるものではなく、続行・推進派の圧力によるものだと見て間違いはないだろう。

中間報告の要旨
中間報告・本文
ビジュアルな解説: