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2013年1月3日木曜日

2012年後半の読書から

秋以降、気温が下がる中でPHNに振り回されたため、横になって読むことがふえた。そんなためもあって軽い本ばかりを読んでいた。軽いといっても内容がではなく、目方が軽い本である。

ローザ・ルクセンブルグ、大島かおり訳『獄中からの手紙 ゾフィー・リープクネヒトへ
みすず書房、2011年


グロスマンの後遺症で読んだ。若い頃のぼくは、彼女の手紙の中でも、このゾフィーへの手紙の方は見向きもしないで、ルイーゼ・カウツキー宛の手紙の方を読んでいた。その中にある政治実践的メッセージや理論にかかわる記述の方が大事だと思っていたのだ。しかし歳をとったからか、体調も衰えていたためだろうか、夕暮れの輝きを讃え、敷石の間からのぞいた草を慈しむ彼女の手紙を読んでいると、忘れかけていた優しい気持ちがどこか奥底からわき上がってくるのを覚えた。

すぐに連想したのがグラムシの獄中からの手紙のすばらしさだ。彼ら2人の牢獄からの手紙がすばらしいこととと、彼らがコミュニストであったこととは何か連関があるのだろうか。コミュニズムの運動が死滅して行ったとしても、彼らの手紙はその先まで残るだろう。これは考えさせられることだ。

NHK取材班『あれからの日々を数えて 東日本大震災・一年の記録』大月書店、2012年



若い記者たちが大災害の現場の1年を追った記録。ここで取材された人々の高潔さを前にすると、やれ維新だ、再稼働だ、同盟強化だとしたり顔でまくしたてている連中がグロテスクな化け物に見えてくる。しかし、12月16日にはこの化け物連合が勝ったのである。あの選挙結果を、ここに報告されている被災した人々の生活の現実と繋がった一体の現実として捕まえることが僕にはできていないことを思い知らされた。
豊下楢彦『「尖閣問題」とは何か』岩波現代文庫、2012年
「文庫オリジナル版」とあるが、雑誌「世界」に書かれた論稿をまとめたもの。極右「暴走老人」が仕掛けた「国有化」が、使われていない米軍射爆場の2島を除いていることや、米国政府が領土問題には中立の立場をとっていることの意味を解き明かしている点だけでも読むに値する。しかし、本書の価値は、現在の領土問題の所在を、45年ヤルタ密約、51年講和条約、71年沖縄返還と、戦後の東アジア国際関係の歴史的展開の中から明らかにすることによって、説得的に“戦略的”な解決方向を示している点にある。『イタリア占領史序説』『日本占領管理体制の成立』(1992)などで世界的視野から戦後国際関係を実証研究してきた筆者の本領が発揮されているように感じた。「尖閣問題」を規定する主旋律は米国のヘゲモニーであり、日本の歴史問題が不協和音として絡むということになろうか。この問題は、一方では冷戦に代わる新しい軍事的緊張関係を東アジアに生み出す可能性をもつと共に、他方では経済関係によって余儀なくされる平和的解決努力が、それが依って立つ正当性根拠の規範への引上げを促す可能性ももつのではないか。一読すると、そんな夢想が広がってくる。