About

2009年7月24日金曜日

疲れている日本社会

最近知合ったKさんから日本での「さん」付けの多発についての問い合わせに、どんなコメントを送ったら良いだろうかと質問があった。
冗談ではない。僕は憲法問題あたりをうろついている自称社会科学者の怠惰な端くれに過ぎない。それでも、折角の機会なのであれこれ思いつくことを書いてみた。

質問は、インドネシアU大学で日本語を学んでいるLさんからのものだという:

それでは、尋ねたい事がありますが。
ジャーナルで読んで、日本人は「さん」の敬称を使いすぎと書きました。
人だけではなく、所、相手の会社も付くようになりました。
例えば、「ルフルさんのウダヤナさんから電話がありましたよ」

変な気持ち担っても、こういうやり方が広がっていますので、ドンドン慣れてきたと書いた日本人もいます。

K先生はよくそういうことをお聞きになりましたか?
気になりました。
文化が違ってゆくので、言葉も連れて行くでしょうね。



僕は言語学(?)を専門にしている訳でもないので、お教えするようなことはとてもできません。でも、このことについて感じているところは色々あります。

「さん」付け連発は一言で言うと、日本社会が「疲れている」現れの一つだと思います。
まず、確かに近頃多用されるように感じるけれど、一体どんなときに使われることがふえているのだろうか。これをもっと知る必要があると思いました。

もう一つ。閉鎖性の高い社会では、そこに独特の言語表現が発達する傾向があると聞きました。単に名詞、形容詞、副詞が豊富になるだけでなく、動詞の変化活用から、独特の言い回しまで。身近な例では方言や業界用語、いわゆるJARGON。

これとは反対に、異文化、異言語との接触がふえると、それまで厳格に使い分けられていた独特の言語表現にも「いい加減」な使い方が入り込んでこざるをえません。「正しくない日本語」とか、Pidgin ピジン言語とかクレオール言語が生まれ、それに反発するかのように「美しい日本語」運動が始まったりするのではないでしょうか。

そうだからか、ある組織や団体の活力が低下し、閉鎖的になって自己防衛に傾く傾向にあるときには、まず丁寧語、敬語、もったいぶった言い方が増えると思います。

それはさておき、「さん」付けの多用です。第一に、これはある種の業界用語:同業、同種の会社などのあいだで、エール交換のように使う。あるいは、自社は他社を呼び捨てにするほど「程度」が悪くないという顕示として。第二に、何も考えず、ただただ丁寧にモノを言えば良いだろうという無思考、同調CONFORMISMとして。第三に、必要な内容を率直に他人と語り合うことの回避として:つまり、ご丁寧な言葉を交換しているうちに時間が経ってしまい、肝心の中味について頭を使って交渉することを避けるために。

こんなことがあるのではないかと感じます。ぼくの職場でも、十年前までは、年齢や経験年数に関係なく同僚同士は「さん」で呼び合っていたのに、この数年は「**先生」が圧倒しています。挙げ句の果てには、「学部長先生」とか「学長先生」です。以前ならこうしたセンセイ呼ばわりは、からかいのニュアンスがあり(「先生と呼ばれる程の馬鹿でなし」という川柳がありますね)ました。しかし、現在では糞真面目に使われています。

そういえば官庁や公的機関にたいしても、「教育委員会さん」とか、「**中学校さん」といった吹き出したくなるような言い方が増えています。ぼくは莫迦丸出しだと思いますが、腹を立ててもつまらないので、「何かピーチクさえずっているなあ」と思うくらいにしています。

元よりお答えにもなっていない、思いつくことの羅列になりました。如何でしょうか。


On 2009/07/25, at 11:13, wrote: