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2009年6月3日水曜日

"野生"の枇杷



研究室を与えてもらっている勤め先の建物の入り口に、枇杷の木がある。毎年この時期になるとぎっしりと小さな実を付ける。それが今頃はおいしそうに色づく。下の方にある実は随分に採られてしまった。しかし、最もよく陽があたり、おいしそうに色づいている上の枝にある実は、毎年鳥に喰われるか、雨に打たれて腐っていくかの運命を辿る。

そこで今年は、積極策に打って出た。樹に登って採る。梯子をかけ園芸用の長い枝切り鋏を使って、上手そうなところから採っていくという積極策だ。

昨日、今日とニコニコしながら大勢で収穫した。無農薬にして無肥料。小粒だがそれが実にこくも甘みもありおいしい。そこらの店に売っているものの比ではない。

実にたくさん取れたので、このおいしさを分かち合いたいとばかりに手当たり次第に近くにいる人に持っていった。ところが、そのうち半分くらいの人たちがなんと、「これ本当に食べられるのですか」と言うではないか。これには驚いた。キノコならまだ疑うのは分かる。枇杷ではないか。一体どういうことだろうか。

おそらく天然自然に生えている木の実や草の実を口にしたり、魚や四つ足の動物を食べた経験がまったくないのだろう。食べ物といえば店で売っているもの、それが如何にして店先に並べられるに至るかなど想像することもなく、「店で売っているものこそ食品、食料」だという観念にしっかりと囚われているのだろう。

「それでいい、それでいい。旨いものはこっちでしっかり食べてやるからね」と僕はつぶやいている。ちなみに僕の配偶者は、かつて海辺で小さな蛸を見つけ、僕がそのかわいい姿に見とれていた時、「早く! 袋よ! ふくろ!」と叫び声を挙げた。聞くと捕まえて持ち帰り食べようとしたらしい。上には上がいる。