2010年5月14日金曜日

タバコ狩り



福音館が出している『たくさんのふしぎ』という子ども向けの月刊誌がある。なかなか面白いので、地域の図書館に行くたびに立ち読みを続けてきた。その2月号「おじいちゃんのカラクリ江戸ものがたり」が、「内容に不適切な点がありましたので、販売を中止し」し、既に売られたものは回収されることになったという。不買運動の圧力によってとられた選択らしい。不買運動の先頭に立ったらしい一人は、この本にJTが経営している「たばこと塩の博物館」が協力していることをとって、「この”協力”には取材だけでなく何らかの要求と利益供与を含んだ関与であることが濃厚に疑われる」と言う。更に興味深いのは、「WHOタバコ規制昨組条約に違反する」と主張していることだ。

引き合いに出されているのが、「この条約及び議定書は、タバコの消費及びタバコの煙にさらされることが健康、社会、環境及び経済に及ぼす破壊的な影響から現在及び将来の世代を保護することを目的とする」という第3条の目的規定だ。不買運動の推進者たちは、どうやらこの条約の目的規定が直接に適用される国内効力をもっていると思っているらしい。しかし、この条約の目的規定が直接に国内適用されるものであるかは、自明のことではない。

まず、この条約の第4条(基本原則)自体が、「締結国は、この条約及び議定書の目的を達成し及びその規定を実施するため、特に次ぎに掲げる原則を指針とする」として、立法や行政上の措置の考慮などを列挙しているに留まる。この条約の目的達成のため、第4条で列挙されている事柄を国内で実施することを締結国に直接に義務づけている訳ではない。なるほど条約は憲法第73条3号によって国会承認されており、我が国は国際協調主義をとっている(憲法第98条2項)。

それに、この条約の目的の国内実施についての「基本原則」を締結国の指針とすることを受け入れたのは国(政府など)であって、個人や企業ではない。福音館やわれわれ一般市民は、確かにこの条約を締結した日本国の中にいる。しかし、条約締結国の中にいる企業や私人の活動を、締結した条約の規定内容に従ってどのように規制するかは、その国の立法府や行政当局がその国の憲法規定に従って決めることではないか。この条約の第4条の基本原則規定自体が”指針”とされていることは、締結国の立法や行政上の措置が当該国のさまざまな国内事情によって多様であらざるを得ず、条約によって一律に決められないことを条約自体が前提としていることを示しているのではないか。

個人や企業を条約の目的規定に直接に縛ろうという主張は、随分に乱暴だ。たとえ良いことであったとしても、それを実現するために、都合の良い法規定をつまみぐいしたり、個人を国の行為に無条件で従うべきものとすることは、おそろしく危ういことだと思う。

僕はニコチニストではないし、タバコの煙を吸わされるのは大嫌いだ。しかし、良いことなら強制しても良いとか、どんな方法で促進しても良いといった人々をみると、どうしても「良いこと全体主義」の危険を感じてしまう。

まずいとされた喫煙場面の絵
http://blog.goo.ne.jp/kuba_clinic/e/efab983a0f4c6a6200cd6d3f24db4860

福音館の回答
http://www.fukuinkan.co.jp/oshirase/goodsid20909.html

抗議文
http://muen2.cool.ne.jp/jyoho/jyoho.cgi?log=&v=151&e=msg&lp=151&st=0
http://blog.goo.ne.jp/kuba_clinic/e/44c2eef735f81878d953002adba35d25

タバコ規制枠組み条約(FCTC)
http://www.mofa.go.jp/MOFAJ/gaiko/treaty/pdfs/treaty159_17a.pdf

新学期が始まって1ヶ月を過ぎた。